20200511引用と記録③

ティリオン・ラニスターは奇態で風変わりな賢人である。

氷と炎の歌からの引用】

「きみは悪知恵の働く男だ、ティリオン。〈壁〉にはきみのような人間が必要なのだよ」

ティリンはにやりとした。「では、七王国を探しまわって小人を集め、全部あなたのところに送りつけましょう、モーモント公」みんなが笑い、かれは蟹の足から身を吸いだし、もう一匹に手を伸ばした。これらの蟹は雪の樽に詰められて、今朝、東の物見城から届いたばかりで、汁をたっぷり含んでいた。食卓についている男たちの中で、サー・アリザー・ソーンだけはにこりともしなかった。「ラニスターはわれわれを茶化している」「あなただけを、ですよ、サー・アリザー」ティリオンは言った。こんどは、食卓の周囲の笑いに、神経質な、不安定な要素が加わった。ソーンは黒い目に嫌悪の表情を浮かべてティリオンを睨んだ。「きさま、半人前のくせに、大胆な口をきくじゃないか。中庭に出ろ」「なぜ?」ティリオンはたずねた。「蟹ならここにあるぜ」この言葉がさらに周囲の者の笑いを誘った。サー・アリザーは口をきゅっと結んで、立ち上がった。「さあ来い。鋼を手にして、冗談を言ってみろ」ティリオンはわざとらしく右手を見た。「おや、この手に鋼があるぞ、サー・アリザー。どうやら、蟹用のフォークらしいがね。決闘“デュエル”するかい?」かれは椅子に跳び乗り、そのちっぽけなフォークでソーンの胸をつつきはじめた。塔の部屋に笑いが渦巻いた。総帥がむせて、その口から蟹の肉が飛びだした。かれの大鴉さえも加わって、窓の上から大声で鳴いた。「デューエル!デューエル!デューエル!」と。サー・アリザー・ソーンはまるで尻の穴に短剣を突っ込まれたかのように、体を硬直させて部屋から出ていった。モーモントはまだあえいでいた。ティリオンはその背中を叩いた。「戦利品は勝利者のものだ」高らかに宣言して、「ソーンの蟹はわたしがもらうぞ」

ラニスター家の創始者はラン利発王である。彼は建設王ブランドン・スタークと同じく、ほとんどお伽話にも似た英雄神話上の登場人物として知られている。建設王ブランドン・スタークは八千年前(デナーリス・ターガリエン誕生を元年とする)北部に〈壁〉を造り、冥夜の守り人“ナイツ・ウォッチ”を創設したと言われている。ラン・ラニスター利発王は、同じくデナーリス誕生を元年とする六千年ほど前、〈岩の王国〉のキャスタリー家から巨大な磐城をだまし取ったと言われている。秀でた頭脳を持ち、策略に長けたラン利発王の武器は“言葉”そのものだったと言われている。キャスタリー・ロック城を拠点とするラニスター名家の歴史はここに始まっている。

またスタニス・バラシオン率いる艦隊の王都侵攻により玉座の防衛戦を図ることになったラニスター家の戦いは“ブラックウォーターの戦い”として知られており、この戦の最中ティリオン・ラニスターは顔面に大きな傷を負った。城壁にスタニス軍が押し寄せ王都が陥落するかと思われた矢先、戦場から逃げ出した悪王ジョフリーに代わって前線に立ち、士気を失った兵たちを鼓舞してスタニス軍の侵攻をくい止めたのはティリオン・ラニスターであった。しかし彼の功労に対し王と小評議会が与えたのは、“王の手”の解任という悪質な報酬であった。ベッドに横たわる傷だらけのティリオンに対し恋人のシェイは優しく口づけをし、「もうやめようよ。こんなこともうやめようよ。私と一緒にペントスへ逃げましょうよ。あなたには別の人生を得るチャンスがあるはずよ」ティリオンは力なくうなだれ「ペントスか。そこへ行って、俺はいったい何をする?」「何をするですって? 食べて、飲んで、ヤって、生きるのよ!」 そう言ったシェイの言葉が忘れられぬ。怒るような悲しむような、憐れむような嘆願するような、その声音が忘れられぬ。それを聞いたティリオンは泣き出し、「ダメなんだ。俺はダメなんだ。ここにいるのが楽しいんだ。俺はこのゲームが楽しいんだ。騙したり、殺したり、強いやつを出し抜いて勝つのが好きなんだ。俺は楽しいんだ。ここにいるのが好きなんだ」 そう言ったのが忘れられぬ。食べて、飲んで、ヤって、生きるとは、何とも、言い得て妙な、しかし、問題は、肌の匂いであろう。宇多田ヒカルが、『あなた』のなかで歌うところの、

“おお 肌の匂いが変わってしまうよ”

であろう。すべての問題は、肌の匂いであろう。と思う。