20200325ベリック・ドンダリオン

“旗標なき兄弟団”を率いる奇妙な不死の男ベリック・ドンダリオンは怪物グレガー・クレゲインにぶち殺されたあと6度蘇ったと言われている。彼は自らの意思とは関係なく光の王“ロード・オブ・ライト”を信奉する異教の祭司・ミアのソロスに何度も蘇生させられたと言われている。黒いぼろ布の眼帯をしているのは何度目かの死に際ラニスター軍の兵士に片目をえぐり取られたからだと言われている。右手に握る両刃剣に手をかざすとたちまち刀身が炎に包まれる奇異な魔術を修得している。「だけど何で俺なんだ?何で俺なんだ?何で俺だけ6回も生き返るんだ?」彼は取り立てて剣の腕が立つわけでも頭脳に秀でてるわけでもない・玉座を巡る名家の争いとも無縁のしがない一般兵であり、誰にも語られることのない無名の男だった。彼は馬鹿みたいに何度も死の世界から蘇った。“猟犬”サンダー・クレゲインがあるとき彼にこう言ったことがある。「お前は特別なところのない奴だ。なのに何でお前なんだ? 名家の騎士も罪なき母子もぶち殺されて二度と生き返らないのに、何でお前なんだ?何でお前だけ生き返るんだ?」まったくわけがわからない。わけわからぬ・理解できぬ。R.E.M.のMonsterというアルバムのように渇いており意味がわからぬ。野暮ったくて無神経で退屈でミドルテンポなエレキテルのカラカラ音でほとんど同じ曲に聴こえる無意味な感じを素晴らしい人生の環境音にするべく・ベリック・ドンダリオンは意味不明な謎の自警団を率いており、小汚い黒いぼろ布の眼帯をしていた・彼は炎を操るわけのわからない魔術を会得していた。史がその名を知る機会が無いにも関わらず、何度も無意味に蘇りまた死んだ。

やがて人類の命運を分かつ“長き夜の戦い”において彼はようやく永遠の安息を得ることになった。“夜の王”が死人の軍勢を率いて“壁”の向こうから生者の世界を侵略し、ジョン・スノウらスターク家の生き残りたちは北部の諸侯をまとめ上げ、炎と血の女王デナーリス・ターガリエンの軍勢と共戦協定を結びこれを迎え撃った。人間世界における「死」そのものを打ち倒そうとするこの狂った自殺的防衛戦において、ベリック・ドンダリオンはどの旗標にも属さず、まるで変わった死にたがりの一人に過ぎなかった。その奇妙な短い人生において自分を生かしてやまない光の王“ロード・オブ・ライト”の意思を汲み取ろうといつも尽力したが、ついにその声を聞くことは叶わなかった。彼は腐食した死人の軍勢に囲まれると短刀でめった刺しにされ、あっけなく死んだ。「ウオオオオ‼︎‼︎」みたいな悲痛とも歓喜ともつかぬ叫び声のほか最期の言葉もなかった。ウィンターフェル城は死人の軍勢に埋め尽くされ、今まさに陥落を迎えようとしていた。復讐の騎士サンダー・クレゲインは戦いを放棄して逃げようとしていた。「戦うんだクレゲイン!」「馬鹿か!俺たちは“死”と戦ってるんだ!勝てるわけない!」しかしその夜、生者の世界は終わらなかった。奇しくもベリック・ドンダリオンが最期に守った者が、“長き夜”を終わらせたからである。妖女メリサンドルはその者に向けてこう言った。

「私はあなたを知っている。あなたは多くの瞳を閉じる者。緑の瞳、黒い瞳、そして青い瞳。行きなさい。アリア・スターク」

何とかっこいいことか。そしてその名は英雄神話の名となり、吟遊詩人の紡ぐ詩そのものとなった、と言えよう。私はその名をずっと昔から知っていた、と言えよう。それは“夜の王”を殺した。青い瞳の死者どもを討ち破った。そして彼女は永遠に物語からはみ出した。そのすべてを“三つ目の鴉”であるブラン・スタークが視ていた。そしてブラン・スタークという名の〈視聴者〉である我々が視ていた、と言えよう。と思う。土曜日に職人と飯酒を共にしたことを書こうとしたが、どんどん話が本流へ逸れていってしまった、と言えよう。と思う。しかし馬鹿馬鹿しいほどかっこいい物語のすべて、というよりも〈物語そのもの〉が、現実よりもずっと現実的で、この現実は今も変わらず起きている、と言えよう。と思う。