20190404方程式

私は昼過ぎに会社に行った。昨日現場寸法より採集した内寸736を基準にR部材を製作する旨伝えた。Rというのは湾曲していることを表すがどういう頭文字かというとラウンドかもしれない。その後新規案件について早急な打合せ求む旨先方の所長へ電話しアポ取った。アポと言うと馬鹿なビジネス用語だと思われるかもしれないが響きが良いので好きだ。アポ。それから図面を作図担当のお義母さんへ送った。その方の娘さんがプロのベーシストで私は会ったことがあった。話すときに前のめりで目をかがみこんでくる。熱い。小動物的な上目遣いではなく熱い上目遣い。熱っぽく真剣で自分を奮い立たせる知恵と勇気と弱さを持っている。たまらん。

私は月曜日は会社の新入社員歓迎会だった。私は会社から会場のホテルへ歩いて行った。17時半になると社長の老人が席を立って「さあ行こうや」と言った。陽キャラの上司は無視して仕事をしており営業部長の初老の男もそうだった。齢66の上司はゆっくり準備しはじめ私もそうだった。設計営業のトムヨークが好きな部長は外から直接会場へ行くとのことだった。設計営業の女子たちはすばやく準備をして社長といっしょに会社を出て行った。私は齢66の男とふたりで会社を出て何となく歩いて行った。電車に乗った。どこで降りるんだったかと彼が言って私はわからないと言った。同じ車両の向こうに設計営業の女子たちと経理のおばさんが乗っていたのでついて行きましょうと私は言った。そして彼女たちについて行った。それからホテルへ歩いて行った。会場へつくとタバコ吸うぞと彼が言ったのでついて行った。私たちは何となく話していた。その様子を言葉じゃなく映像で見てほしい。こんなに歳が離れていても、心は通う。それから私の会社のケータイに陽キャラの上司から電話が掛かってきた。「はじまるよ」とだけ言ってプツッと切れた。私たちは戻ると全員席についていた。「わりいわりい!」と齢66の男は大声で笑って席へついた。それから社長の老人が立ち上がって喋りはじめた。陽キャラの上司は無視して「ビール。4本、いや5本。」とホテルマンの男に告げた。それから社長を自称する老人がカンパイの音頭はクマちゃんだと言った。私は注目を集めて焦ったがカンパイと言った。クマちゃんカンパイとトムヨーク好きの部長がテーブルの向こうでなじるような目つきでグラスを上げた。なじるような目つきはおそらく冗談でやっているが私の音頭の落ち度をフォローする役目も果たしていた。それから私は席を立って食べ物を取りに行った。刺身、マグロ、鯛、あとは知らない食べ物から優先的に取って行った。私はその日は昼を遅めに食べたので腹が減っていなかった。

私は書き忘れていたが新入社員の人は女の子が一人だった。山形の米沢市出身だと言っていたが私は今日まで一言も喋ったことがないのでどういう人なのかわからない。私は会社にいる時間が短いのでまだ姿をちゃんと見てもいない。そのホテルの会場にはいたが彼女はスーツを着ていた。私は右隣に社長がいて左隣に作図のお義母さんがいた。目の前にうるさい先輩の女性社員がいた。左ななめ前に経理のおばさんがいた。右ななめ前に齢66の上司がいた。彼のとなり、私から見て遠くへ行くとトムヨーク好きの部長がいてその向こうとなりは陽キャラの上司がいた。そこまで行くとテーブルの端になる。陽キャラの上司の前に私の同期の女子社員がいて、彼女のとなり私のこっち側へ来るとその新入社員の女の子がいた。しかし私とその子のあいだに死に体である社長がいたので私はそれが壁になって新入社員の見た目もいまだによく知らないということだった。私にとって経理のおばさんと作図のお義母さんはいっしょにゴリラズのライブを観に行った仲でもあるので音楽の話ができて嬉しかった。私は右ななめ前の齢66の男と外国の自然の景色について話を聞いたり左の婦人たちにバンドを組んだ旨を伝えて音楽について話し合ったりしていた。社長は誰とも喋っていなかった。その日一度彼と話したときは、彼は70年代に一ヶ月ほどドイツで研究をしていたとのことだった。私がベルリンの壁は見たかと聞くと彼は見なかったと言った。そういうのには興味がなかったそうだ。80を越える男に昔の話を聞くのは胸の踊る経験だと思うだろうが人にはさまざまな種類があり社長から興味深い話を聞き出せる割合は少ない。ドイツで彼が行なっていた研究もガラス窓の耐久性についてのことであるがたしかに詳しく聞いていけば面白い話ではある。しかし社長がいかに狭い一本道でひた走ってきたかという努力と栄光とある種の不毛さしかそこから聞くことができない。社長はオリジナリティのある人間ではないうえ戦後世代の内面の欠如した強さと退屈さを結晶のように練り固めた人格なので無念だ。まるで未だ見ぬ神秘の宝石が眠る掘削不可能な鉱山のようだ。しかしいずれ彼が死ぬ前に覚悟して深く彼の話、何を見たか、何を感じたかは聞いてもつまらない返事しか返ってこない。内面と思考がないから。しかし深く話を聞き、掘り下げてみるべきだと思う。

それから私は今日齢66の男から頼まれた書類を作成した。その後自分の提出書類を二件作成しメールで提出した。それから一件見積書を作成した。私は金額のことを考えるのが苦手だった。数字のイメージが苦手なので何回も間違えて相手が怒ったこともあった。今日は先方の指定様式の見積書を用いなくてはならなかったので余計に面倒だった。法定福利費を記載する項目があるがこちらの計算した契約金額には法定福利費がすでに含まれているので、部分的な%の計算をして一度書式上で差し引いた金額を出さなくてはならず、その上最終的にはそれから出精値引として金額を差し引かなくてはならない。法定福利費を計算するには自社の定める社会保障比率を用いて割り出さなくてはならない。割り出すのにかけ算を使うのがわからないし0.045がどう数えるのかもわからない。比率が15.33なんだから0.15だろと上司に言われたが逆だったかもしれない。申し訳ないが本当にわからない。100%という言葉を使うとき何が百パーセントなのか主体がわからない。しかし100%は言葉ではなく数字の単位なのでそもそものイメージの段階から掴み損なっている。夜も遅くみんなが帰ってからうるさい女上司と同期の女の子が100%=1とすると1%=0.01になることを教えてくれた。しかし話を聞くと比率の計算式やxの求め方はわかるのになぜそうなるか説明できないらしい。だから駄目だと思った。算数や数学は論理思考だがこの考え方は私が未だ知らない、使うことのできない魔法陣だと思った。=イコールという等式は異なるふたつを問答無用に同一のものと見なす強制的な鍵のようなもので2:x=5:20と問いを定められたときになぜそもそも2:xが5:20なのかというところでがちゃがちゃ獣みたいに鍵を外そうとしても永遠に式が解けない。そもそもなぜ比率の式で内項と外項がそれぞれ対応するのか、なぜ40と5xにそれぞれ変形?移行?増大?したふたつの項が、最終的にxを導き出すことのできる正の道順となるのか、彼女たちはそれが数式だからと言っていたが、キングダムで残虐非道な殺戮を繰り返す桓騎将軍が「これが戦争なんだよ」と言うのに対して飛信隊の信が「それは戦争じゃねェ!」と言い切ったのと同じだった。それは数学じゃねェ。数学はおそらくもっと無限に奥深い。しかし私はアインシュタインを読むのに必ず途中で挫折する。