20181001②麻痺

10月になり工場のパンクが近い。私はあの自軍の全滅を前にした飛信隊・玉鳳隊・楽華隊の五千人将たちのように狂気的な静寂のなかにいる。飛信隊の信は一国の滅亡か勝利かの命運を背負った連携作戦を前にしてなお、いつも通り王賁を茶化しては笑っている。「若、あいつは本当に馬鹿なのですか」「およそこの二隊にかかっている責務を理解しているとは思いませぬ。こんな状況にあっても奴は自分の武功をあげることしか…」王賁は憎き信の横顔を見て蒙恬の言葉を思い出す。「天下の大将軍ってのは、たぶんどんな状況にあっても、自分勝手な景色を見てたんだと思うよ」その信の横顔がその言葉を思い出させ「あり、えぬ」と王賁が断じて否定しようとする胸が熱くなるシーンだが、信の横顔は本当に自分を主人公だと勘違いしている、神経系の麻痺した、本物の、まるで古代の石碑に刻まれた伝説の英雄の顔のようだ。彼は王騎の矛を握り、迫り来る敵のなかうつむいていて目を閉じ静かに息をしているが、なにを考えている。なにも考えてはいない。奴は一国の命運を背負いながらも、あろうことかただ自分の武功をあげることしか考えていない。ましてや自分が死のうとは。道半ば倒れるとは頭の片隅によぎってすらいない。だから死なない。頭がおかしい。でもだから彼は勝つ。私は自分が彼と同じだとは思わないが、同じ景色を見ることはできると信じているというか、覚悟はできている。「若いときに苦労したほうがええで」というあの所長の言葉が胸をよぎる。「困難な人生だね」という言葉が胸をよぎる。「地獄を見せてやるぜ」という言葉のおかげで楽しくなれる。これ以上無理なのに12月の案件がまわってくる。「もう無理です。でもやらなきゃいけないですね。やるしかないですね」と言ったら「おめえも覚悟決めてきたな」と言ってニヤッとされたがそんなの絶対みんな辞めると思う。ここは最前線なのではないか。といってもそんな場所はいくらでもある。広くて大きな世界のほんの一部がここだといえる。