2018.8.19

世の中というのは本当に不思議なところだとは思わないかと私は思う。というより誰かにそれを言いたい。だから私は誰かに会いたいのかもしれない。これはロマンチックしたグチグチな文句垂れではなく、素直な気持ちに過ぎない。じゃあそう言う私が何なのか。それは考えてみると楽しいはずだが、わからない。

少なくともおとといの朝は新潟にいたはずで、始発の長岡行きの信越線に乗った。駅というのは田舎は小さく、静かであった。とても寒かった。日が昇ってくる少し前といったところであった。なぜかいつも町を歩いていると必ず出会う名も知らぬジジイが駅のホームにおり私はなるほどと思った。記憶というものはいたるところに実在すると思った。私はこのジジイを見ると連鎖的に町のあらゆる道が記憶として想起され、現前し、立ち上がる。あとは駅のホームに運動部の学生がいた。人がいる、と私は思った。東京の池袋駅とか赤羽駅とかで、山手線とか埼京線とかを待っているホームで人がたくさんいても、人がいるとは思わないが、小さい町で朝始発の駅のホームで人がちらほらいると、人がいると思うというのは、当然のことだとは思わないか。何の話をしているのか。とにかく電車に乗った。田んぼに沿って走っていった。私は母が持たせてくれたサンドイッチを食べた。という心あたたまるシーンに見えたかもしれない。私は長岡駅で新幹線に乗った。新幹線では座れて嬉しかった。さあ景色を見るぞと私は思った。マックスときは二階建てなので二階の窓際に座ると高いところから景色がよく見えるので良かった。だが私はとくに景色に感動はしなかった。そして家へ帰ると会社へ行って図面を持って現場へ行った。埼玉の現場と神奈川の現場をはしごして、移動距離は70km近くあった。完全に日が暮れていて私は疲れた。私は神奈川県相模原市緑区の根小屋という美しい町の丘の上にいた。日が傾いており私のいる丘の坂道の上の方から、小さく見える町の向こうの山のふもとの湖までパアーッと赤く暗くなり色というものは素晴らしいと思った。私は斜面を歩いて下っておそらくまだ元気だった。それからソニックマニアに行かなくてはならなかった。ソニックマニアのタイムテーブルを調べたら、わかってはいたが狂っていると思った。しかしチケットを持っているから行かなくてはならない。23:45からジョークリントン、1:15からフライングロータス、1:45からマイブラッディヴァレンタイン、いや、たぶん時間を間違えている。どこかのあいだにサンダーキャットが演奏をした。マイブラのあとは電気グルーヴだった。私は実はまったく記憶がない。立っていると膝ががくんとなり前の人に頭をぶつけた。覚えているのは、マイブラは最後の曲で体感時間で10分とかそのくらいの、しかし相当長いあいだ、ノイズを演奏し続けた。私は何度も前の人に頭をぶつけて振り向かれた。意識が途切れるというのはこのことを言うと思った。しかも小澤さんと行く予定だったのに当日から小澤さんと連絡が取れなくなり私は一人で眠気に立ち向かうすべもなく全身をガクガクさせて立っていた。おそらく小澤は私のラインを無視して兄貴と一緒に行ったんだと思う。私は立っているのも精一杯だったのに演奏が聴けるわけなかった。しかも観客はすごく元気だった。ぜったい寝てから来ている。ジョークリントンと彼の率いる英雄たちのエネルギーは凄まじく、自転する大地を逆方向から引っ張り返し、夜の地上にまた燦々たるあの太陽を引き連れてくるかのようであった、と言うべきか私は膝をガクガクさせ白目を剥いて泡を吹いていた。

だが頭は動いていたといえよう。なぜなら私はマイブラを聴きながらずっと考えていた。おそらく彼らは、「おそらく彼らの音楽は、まだテクノロジーが追いついていないのではないか」なぜならライブではぜんぜん空間のサウンド化ができていない。いやできていると言えるのか。たしかに圧はすごい。だから彼らは意識してああいう大音量のライブをやろうとしているのだが、しかしボーカルがまったく聞こえない。ギターが轟音で歌声は囁くので当然のことか、しかしこれだと何の曲を演奏しているかわからない。誰もこれをハッキリ言わないだけなのではないか。どう考えても、わけのわからない演奏でキャーキャー観客は言っているが、本当にわかって叫んでいるのかはかなり怪しい。「いやーノイズたまんねーわ!」と私のうしろ左隣の集団がうれしそうに言っていて、「なぜ一人で来ない?」と私は恨めしく「なぜ?なぜ一人で来ない?」「子宮に響くわー!」「俺の子宮に響く!」と言っていて「どうして?どうして?」と私は思って最後の曲のノイズのときに彼らがモッシュと言うのか私に体当たりしてきて私はすっ飛んでいった。だが彼らは何の音楽かも理解していない。もちろん私もわからない。マイブラのライブは、ボーカルがまったく聞こえない。

朝の5時だったか、私は会場を出て一人で歩いていて、とにかく歩くんだとずっと考えていた。「とにかく歩くんだ歩こう歩こう歩こう」という感じだった。はやく帰って眠らなくては、と近くでカップルの話し声が聞こえて、「マイブラのボーカルぜんぜん聴こえなくね??」と男が言っていて「ほら」と私は思って「ほらねやっぱりねやっぱりね」と思考がノイズの渦のようだった。駅の扉が閉まっていて群衆が押し寄せていた。何だあれは何だあれはと思って私は駅の反対側へ歩いて行って休もうと思って石垣に腰を下ろした。それから電車に乗ったら群衆に囲まれて私は新木場まで何分だとずっと考えていた。30分と電光掲示板に書かれていて30分か30分立っていればあとは新木場から乗り換えて池袋まで30分立っていればもう立っていなくていいんだと思って何度も首をガクガクさせて意識が飛んで隣の女子大生二人が「逆にぜんぜん眠くないわ」と言っていて「ソニマニのレポート書けば?」「それ超楽しいやつじゃん」と言って夏休みの会話をしていて私は白目を剥いていてそのとききっと清水も同じ気持ちで祈っていたんじゃないかとなぜかそういう気がする。そして家に帰って目を閉じると死ぬ前の気持ち良さみたいだった。起きると昼だった。もう一度眠ると夕方だった。つぎに眠るときは夜だった。